主演 : 1985年のデンマーク映画『ペレ』で主役を演じたペレ・へウネゴー
監督 : オーエ・ロイス


若いデンマーク人兵士ヤコブは、国連部隊のPKOでボスニア行きを命ぜられる。射撃の腕はすこぶるよかったが、実際の戦地では小競り合いにもかかわらずビビってしまい、ホルト軍曹に窮地を救われる。

休暇のある日、ヤコブはホルトから同行を誘われる。ついてゆくと、それは戦争とは関係のない「セルビアン人狩りツアー」のガイドであった。雇い兵として様々な戦地をくくり抜けてきた、戦争屋ホルトのブラックビジネスだった。アメリカ人、スウェーデン人、ドイツ人、そしてデンマーク人は、それぞれの思いでこのツアー関わり、のどかな農家を襲うのだった。アメリカ人は鼻歌交じりにスウェーデン人はテレビゲームをするようにドイツ人はためらいながら、引き金を引くのだった。しかしゲリラに帰還用ヘリを爆破されて、5人は戦場を迷走し疑心暗鬼に陥る。スウェーデン人は「人を殺してみたのに、なにもかわらない」とつぶやいたとたん、被弾して死亡。アメリカ人はこのツアーの脱退を決断したヤコブに殺される。感覚を麻痺させられない新兵ヤコブは、実はジャーナリストだったドイツ人女性を救うべくホルトから逃げる。しかし口封じを試みるホルトは、二人を追った。

女性はホルトに撃たれ、ホルトはセルビア人少年の背後から放った憎しみのこもった銃弾であっさりと打ち抜かれる。死んだホルトの胸のペンダントには、家族と思われる写真があった。ヤコブは軍法会議で兵役を解かれ「敵軍と交戦のすえ、軍曹は死亡、自らは負傷」の報告を否応なく認めさせられるのだった。

戦場は、人から確実に人間性を奪う。人間的感覚を麻痺させなければ生き残れないのだ。だから新兵はすみやかに人間性をなくしてゆくために、先輩兵士からあらっぽい経験をさせられる羽目になった。その経験を踏み越えられなければ、戦場を去るか殺されるしかないのだ。

ひたすら死を生産する戦争が起きる理由は、誰もわからない。この映画はセルビア人を悪者にしたたて行われた戦争へのアンチテーゼであり、同時に戦争の底無しのむなしさを描いたものだ。それらのメッセージを監督はセリフでなく、きわめてリアリティに満ちた映像と音で突きつけてくる。のどかな時間が一瞬にして銃弾に引き裂かれる場面を繰り返し、見るものをライブ感覚に満ちた戦場にひきずりこんゆく。そしてヤコブが繰り返す生と死をわける決断は、私たちを傍観者でいることを許してくれない。

「おまえならどうする?おまえならどうするんだ」。

人間性を失う寸前で戦場を離れたヤコブが、ボスニアでの体験をどのように克服するのか。それがこの映画をみた者の宿題だと思う。

それでは、戦場へどうぞ。