Päivää(パイヴァー)!こんにちは!

日本は今年も暑い夏だったわね。フィンランドも近年は30℃を超える日が結構あるみたい。気温は日本の方が断然高いけど、フィンランドは電車や公共施設にエアコンがないところが多いから、日本より辛いかもね。ちなみに、フィンランド語で「暑い」はkuuma(クーマ)。25℃以上になると「猛暑」に当たるhelteinen(ヘルテイネン)と言うこともあるの。日本だと25℃は快適な気温なんだけどね。

さて、今日もフィンランド語の謎を解明しなくちゃ。ハンナならどんな難題も解決できるんだから!

さて、6回目の依頼人は、第1回で登場したユミコさんよ。

🔎Case #6:『オブジェクトNの変身』

ハンナ:こんにちは、お久しぶりね。元気にしてた?
ユミコ:はい。あれから本格的に留学の手続きを進めています。この前、夏休みを利用してフィンランドへ短期の語学研修にも行きました。
ハンナ:そうだったのね。じゃあ、フィンランド語にちょっとは慣れてきたかしら?
ユミコ:ちょっとずつですけど。研修の時に一般家庭にホームステイをさせてもらっていたんですが、今日はその時に浮かんだ疑問を解決したくて伺いました。
ハンナ:なるほど。どうしたの?
ユミコ:ホストファミリーとの会話で、どうしてもわからない表現の違いがあって・・・
(ハンナにメモを渡す)

ユミコ:(1)はホストファーザーが洗車を終えて家族に言った言葉です。「車を洗ったよ」という意味ですよね?
ハンナ:その通りよ。
ユミコ:でも、ホストファーザーが洗車している時に私が用事で話しかけたら、「(今は)車を洗っているから後で行くよ」みたいに言われたんですけど、その時に出たのが(2)の文です。(1)のauto(アウト)「車」にくっついてるnは日本語で言う「を」みたいなものだと思っていたんですが、(2)のautoにはaがついています。どちらも「車を」じゃないんですか?同じものを洗っているのに、なぜ「を」を意味する形が違うのでしょう?
ハンナ:この前は2つの「赤い」*¹で、今度は2つの「車」で悩んでいるというわけね。
ユミコ:そうなんです。ハンナさん、この謎が解けますか?

ハンナ:トタ、トタ*²・・・わかったわ!
謎を解くカギは「objekti(オブイェクティ)のN」よ!

ユミコ:オブイェ・・・?何ですかそれ?
ハンナ:ああ、ごめんなさい。ちょっとカッコつけてしまったわ。objekti(オブイェクティ)というのは、「目的語」を意味するフィンランド語よ。英語だとobject(オブジェクト)。ユミコさん、目的語ってわかるかしら?
ユミコ:はい!動作を受ける対象、例えば「私はパンを食べる」の「パンを」ですよね?
ハンナ:そうよ。(1)のように、「洗う」という動作を受けるのは「車」、つまりautoは目的語だから、それを示すnがついている。ここまでは理解できてるのね。じゃあ、(1)の時、車はどういう状態だった?
ユミコ:え?もちろん、洗い終わってきれいな状態でしたよ。
ハンナ:そうでしょうね。つまり車全体に「洗う」という動作が行われた状態。じゃあ、(2)の時、車はどういう状態だった?
ユミコ:ホストファーザーが洗っている途中だったから、部分的にはきれいだけど、おそらく汚れはまだ残っていたと思います。
ハンナ:そう、そこなのよ。(2)の場合、車を洗っている途中で、車全体には「洗う」という動作が及んでいないとも解釈できるわよね?
ユミコ:うーん、そうですけど、それがどう結びつくんですか?
ハンナ:ユミコさんは、目的語にはいつもnがつくものと思っているようだけど、動作がどのように行われているかで、nが違う形になることがあるの。(1)は「車全体を洗い終わった」からautoにnがつくんだけど、(2)は「洗車の途中で、まだ全体を洗い終えていない」からautoにはnがつかなくて、代わりにaという形がつくの*³。
ユミコ:へえー!じゃあ、nとaは動作の進み具合の違いを表すってことですか?
ハンナ:そう!目的語につくnって、実は他にも条件があるの。おっと、次の依頼人が来る時間だわ。またの機会に話すとするわね。
ユミコ:またわからないことがあったら相談させてください。同じものに対する2つの表現で悩まなくなるよう、今後も勉強がんばります。ハンナさん、ありがとうございました!

謎は解決!次はどんな依頼が舞い込んでくるかしら?次回もお楽しみに!


*1 「フィンランド語探偵ハンナ」第1回を参照
*2 トタ(tota):日本語の「えーっと」に当たる語tuota(トゥオタ)のくだけた発音
*3 文法用語ではnは対格形、aは分格形と言います。分格形は名詞の音によってa以外にも種類があります。