フィンランド語探偵ハンナ 第16回

Päivää(パイヴァー)!こんにちは!

9月といえば秋の始まりよね。フィンランド語で9月はsyyskuu(スュースクー)と言って、「秋の月」という意味なの。この時期は一気に気温が下がってくるから、旅行する場合は日本にいる時より1枚多く着る、という感覚を持つといいわ。

さて、今日もフィンランド語の謎を解明しなくちゃ。ハンナならどんな難題も解決できるんだから!

16回目の依頼人は、第11回に登場した、出版社勤めでフィンランド人の友人を持つサヤカさんよ。

🔎Case #16:『バースデーソングの謎』

ハンナ:こんにちは、お久しぶりね。

サヤカ:こんにちは!最近は仕事が忙しいんですけど、やっぱりフィンランドが恋しくて、思い切ってこの前行ってきちゃいました。友人のアンナが誕生日だったので、お祝いもかねて。

ハンナ:そう!アンナさんも喜んだでしょうね。

サヤカ:ええ、普段ビデオチャットをしていますが、実際に会うのは5年ぶりくらいなので、お互いテンション上がっちゃいました。

ハンナ:いい思い出を作れて良かったわね。それで、今日はどんなご依頼かしら?

サヤカ:アンナをお祝いするために、ホームパーティーに参加した時のことです。おなじみのバースデーソング、“Happy Birthday To You”をフィンランド語で歌おうということになりました。私はそれまでフィンランド語バージョンを知らなかったので戸惑っていたら、「簡単な歌詞だから大丈夫よ」とアンナが教えてくれました。確かに1つの文を繰り返すだけで、すぐに覚えられたんですが、その歌詞がとても不可解で・・・。

ハンナ:不可解?“Paljon onnea vaan.”(パルヨン オンネア ヴァーン)のことよね?

サヤカ:そう、それです!Paljon onnea.(パルヨン オンネア)は「おめでとう」という意味だと知っています。私が気になったのは最後のvaan(ヴァーン)です。

文法書には『vaanは「AではなくB」という表現で使われる』と書いてあります。例えばEn ole kiinalainen vaan japanilainen.(エン オレ キーナライネン ヴァーン ヤパニライネン)「私は中国人ではなく日本人です」というように。そうですよね?

ハンナ:ええ、合ってるわ。

サヤカ:だとしたら、Paljon onnea vaan.っておかしくないですか?「おめでとう、ではなく」?「おめでとう、だけれども」??どんな日本語をあてても不可解です。バースデーソングになぜvaanなんて否定的な意味を持つ単語が使われるのか、疑問に思いました。でもアンナはすぐに彼と話を始めちゃったから邪魔するわけにもいかず、私もほどなくして酔いが回り、聞くのを忘れちゃいました。そんなわけでこちらに伺いました。ハンナさん、この謎が解けますか?

ハンナ:トタ、トタ*1・・・わかったわ!

謎を解くカギは「話し言葉のvaanよ!

サヤカ:話し言葉?どういうことでしょうか?

ハンナ:サヤカさんの言う通り、vaanは「~ではなく」の意味で使われることが多いわ。でも、話し言葉、つまり会話の中では別の意味を持つことがあるの。

サヤカ:へえ。話し言葉のvaanはどういう意味なんですか?

ハンナ:簡単に言うと、話し言葉のvaanには何かを命令したり誘ったりする時に微妙なニュアンスを加える働きがあるの。

例えば、友達を家に招いてたくさんの料理を出したとしましょう。好きなだけ食べてほしいわよね。その時、Ota vapaasti.(オタ ヴァパースティ)「自由に取って」と言うのと、Ota vaan vapaasti.(オタ ヴァーン ヴァパースティ)と言うのとはちょっと違うの。vaanなしだと「自由に取って」、vaanをつけると「自由に取って」ぐらいの違いかしら。

サヤカ:なーるほど、話している人の気持ちが乗るってことでしょうか。じゃあ、バースデーソングのPaljon onnea vaan.のvaanも同じ働きがあるんですか?

ハンナ:それもあるけど、バースデーソングは普通の会話とちょっと事情が違うと思うわ。バースデーソングでPaljon onnea vaan.と言っているのは、歌のメロディーに合わせてvaanを付け足したというのが主な理由じゃないかしら。日本語でも「おめでとう」と「おめでとうね」は、ほとんど意味が変わらないでしょう?

サヤカ:そうか!微妙なニュアンスを伝える単語だけど、歌詞をメロディーに合わせるという使い方もあるんですね。俳句で五・七・五にそろえるのと似てるかも。

ハンナ:そうね。vaanは会話の中でけっこう大事な要素なんだけど、ネイティブでもうまく説明できない人が多いわ。

サヤカ:そうなんですね!話し言葉のvaanがネイティブのようにすっと出てきたら進歩したってことになるのかな?また勉強頑張ります。ハンナさん、ありがとうございました!

謎は解決!次はどんな依頼が舞い込んでくるかしら?次回もお楽しみに!

*1 トタ(tota):日本語の「えーっと」に当たる語tuota(トゥオタ)のくだけた発音

フィンランド語探偵ハンナ 第15回

Päivää(パイヴァー)!こんにちは!

日本に住んでいると、時々フィンランドの食べ物が恋しくなるわ。例えばコーヒーのお供、シナモンロール。フィンランド語でシナモンロールはkorvapuusti(コルヴァプースティ)と言って、これは「耳への平手打ち」という意味なの。耳を押しつぶしたような形を例えているんだけど、何だか物騒な名前よね。

さてと、今日もフィンランド語の謎を解明しなくちゃ。ハンナならどんな難題も解決できるんだから!

今回の依頼人は、第9回に登場した大学院生のカナさんよ。

 

🔎Case #15:『でもはでもでも』

ハンナ:こんにちは、元気にしてた?

カナ:はい、お久しぶりですね。今年度は修士論文を提出する年なんです。北欧の幼児教育をテーマにして、大体まとまってはきました。できれば博士課程に進んで研究を続けたいと思っています。

ハンナ:そう、頑張ってね!調査でフィンランドに行くことはあるの?

カナ:はい、実は先週まで、2週間滞在していました。大学の図書館で資料を集めつつ、現地の友人とも会ったりして楽しかったですね。ただ、友人との会話の中でどうも腑に落ちないことがあり、またここに来ました。

ハンナ:なるほど、どんなご依頼かしら?

カナ:ラウラという友人と大学で会って話をしていた時のことです。「これからコーヒーを飲みに行こう」みたいなことを言われたんですけど、その時の言葉が引っかかって。

ラウラはMennäänkö kahville, vaikka Café Esplanadiin?(メンナーンコ カハヴィッレ ヴァイッカ カフェ エスプラナディーン)と言いました。Mennäänkö kahville?(メンナーンコ カハヴィッレ)は「コーヒーを飲みに行かない?」という意味ですよね*1

ハンナ:その通りよ。

カナ:私が気になったのは、その後のvaikka Café Esplanadiin(ヴァイッカ カフェ エスプラナディーン)です。vaikkaって「~だけれども」という意味ですよね?文法書でこんな文を見たことがあります。

Lähdetään, vaikka sataa lunta.

(ラハデターン ヴァイッカ サター ルンタ)

「雪が降っているけれども出かけよう。」

ハンナ:確かにそうね。

カナ:ラウラが言った言葉を訳すと、「コーヒーを飲みに行かない?カフェ・エスプラナード*2だけど。」となります。ご存知のように、カフェ・エスプラナードは超有名店です。それなのに「カフェ・エスプラナードだけど」と、謙遜するようなことを言うから変だなあと思ったんです。細かい質問をするのも何だか悪い気がして、ラウラには言えずじまいでした。まさか、フィンランドにも日本と同じような謙遜の文化があるとか?!ハンナさん、この謎が解けますか?

ハンナ:トタ、トタ*3・・・わかったわ!

謎を解くカギはvaikkaのもう一つの意味」よ!

カナ:もう一つの意味?「~だけれども」とは違う意味があるんですか?

ハンナ:文法書では、vaikkaは「~だけれども」という意味をメインに説明する傾向があるみたいだけど、実はもう一つ、「例えば」という意味があるの。

カナ:えーっ、そうなんですか!ということは・・・

ハンナ:もうわかったわよね?ラウラさんが言ったMennäänkö kahville, vaikka Café Esplanadiin?を直訳すると「コーヒーを飲みに行かない?例えばカフェ・エスプラナードに。」となるわね。

カナ:なーんだ、そうかあ。それにしても、vaikkaは「~だけれども」と「例えば」という全く違った意味を持つ言葉なんですね。ちょっと覚えにくい。

ハンナ:そうでもないわよ。ラウラさんの言葉をもう少し自然な日本語にすると「カフェ・エスプラナードにでもコーヒーを飲みに行かない?」、つまりvaikkaは「でも」という意味。「~だけれども」という言葉も「でも」とほぼ同じ意味でしょ?さっきカナさんが言ってくれた例文の訳「雪が降っているけれども出かけよう。」は「雪が降っている、でも出かけよう。」と言えなくはないから、vaikka=「でも」と覚えるといいわ。

カナ:なるほど!「でも」は「でも」でも違う意味・・・何だか「でも」ばっかり。

ハンナ:ところでカナさん、カフェ・エスプラナードでシナモンロールを食べた?

カナ:はい!とっても美味しかったです。大きいからお腹いっぱいになっちゃいました。

ハンナ:あそこのシナモンロールは私も大好き。ああ、また食べたくなっちゃった。

カナ:私もサルミアッキが恋しいなあ。あ、冗談ですよ、あれだけはちょっと無理です・・・。とにかくハンナさん、ありがとうございました!

謎は解決!次はどんな依頼が舞い込んでくるかしら?次回もお楽しみに!

*1 Mennäänkö kahville?は「お茶しに行かない?」のように、飲み物をコーヒーに限定しない意味としても使われます

*2 カフェ・エスプラナード:ヘルシンキの目抜き通り、エスプラナード通りにあるやや高級なカフェ

*3 トタ(tota):日本語の「えーっと」に当たる語tuota(トゥオタ)のくだけた発音