フィンランド語探偵ハンナ 第14回
Päivää(パイヴァー)!こんにちは!
この季節、フィンランド人の大半は夏休みを満喫しているわ。郊外のkesämökki(ケサモッキ)と呼ばれるサマーコテージで、のんびり日光浴をしたり、サウナと湖を往復したり。ただ、自然が豊かなところには蚊がたくさんいるの。日本の蚊より大きいから、刺されると結構痛くて。しかも、日本の虫よけスプレーを使っても全く効果がないの!
さて、今日もフィンランド語の謎を解明しなくちゃ。ハンナならどんな難題も解決できるんだから!
14回目の依頼人は、お隣のフィンランド人女性とすっかり仲良くなった、主婦のミチヨさんよ。

🔎Case #14:『第三の数字』
ハンナ:こんにちは、ミチヨさん。お久しぶりですね。
ミチヨ:ええ、ご無沙汰しています。今もちょっとずつフィンランド語の勉強をしていますよ。お隣のパイヴィさんは漢字の勉強をしていらっしゃるので、私もお手伝いしたり。
ハンナ:お互いに語学を頑張っていらっしゃるんですね。それで、今日はどういうご依頼ですか?
ミチヨ:ええと、パイヴィさんの弟さんで、ヘルシンキ在住のマッティさんが、先日遊びに来たんです。その日は私もお家に招かれていましてね。お料理の準備が一段落したところで、パイヴィさんに電話がかかってきました。
ハンナ:マッティさんからですか?
ミチヨ:はい。「空港から最寄り駅まで来た」という連絡でした。何度か日本に来たことがあるそうで、電車の乗り換えも一人でスムーズにできたようで。
最寄り駅から私たちの住む地区までは、バスで10分ほどの距離です。私たちはバスに乗ってマッティさんを迎えに行く予定でした。でも彼は「バスの番号を教えてくれれば一人で来られる」と言ったようで、パイヴィさんは最寄りのバス停までの行き方を説明し始めたんです。彼女はリビングのソファに座り、携帯電話で話していました。私は、少しでも聞き取れるフィンランド語はないかと、隣で耳を傾けていたんです。そして間もなく、ある謎にぶつかりました。
ハンナ:謎、とは?
ミチヨ:駅から4番のバスに乗れば、自宅前のバス停に着きます。だから、少なくともneljä(ネリヤ)、つまり「4」という数字は出てくるだろうと思って聞いていました。ところが、いつまで経ってもneljäという単語は聞こえてこなかったのです。そのうち電話が終わり、パイヴィさんは日本語で「バスの番号を教えましたから、マッティは来られます」と言ったのです。ということは、数字を伝えたはず。でも彼女は、neljäとは言っていないのです。数字を伝えていないのに相手に伝わるなんてことありませんよね?ハンナさん、この謎が解けますか?
ハンナ:トタ、トタ*1……、わかったわ!
謎を解くカギは「第三の数字」よ!
ミチヨ:第三の数字?あの、バスは4番ですけど?
ハンナ:ミチヨさん、「1、2、3……」と数える時の数字の他に、数の表し方をご存知ですか?
ミチヨ:ええと、はい、「1番目、2番目、3番目……」という数え方、序数と言うんだったかしら?「日付などに使われる」と、参考書に書いてありました。
ハンナ:そう、序数もありますね。
ミチヨ:でも……序数にしても「4番目」はneljäs(ネリヤス)と言うんですよね?普通の数字、neljäと似ているから聞き取れても良さそうなものだけど、それも聞こえませんでしたよ。
ハンナ:実は、フィンランド語には他にも数え方があるんです。バスやトラム*2などの番号を「1番、2番、3番……」と数えるのに使う「第三の数字」です!
ミチヨ:えっ、番号を言うための数字が別にあるんですか?!
ハンナ:その通り。「1、2、3……」と数える時の数字を基数と言いますが、それと「第三の数字」を1から10まで比べてみましょうか。
ミチヨ:基数に似たものもあれば、ずいぶん違っているものもありますね。「4」はneljä(ネリヤ)で「4番」はnelonen(ネロネン)、こうして見れば似ていると思えますけど、知らなければ聞き逃してしまうかも知れないわ。
ハンナ:そう、そこなんです。おそらく、パイヴィさんはnelonenという単語を使ったのでしょう。それも、もし文の中で使ったとしたら、形が変わることがあります。例えば「4番(バス)に乗りなさい」はNouse neloseen.(ノウセ ネロセーン)と言います。nelonen(ネロネン)がneloseen(ネロセーン)に変化してしまい、バスという単語も出てこないので、聞き取りは難しかったと思いますよ。
ミチヨ:なるほど、そうだったのね。基数と序数以外に数字があるなんて思いもしませんでした。
ハンナ:基数を使って番号を言う方法もありますが、ネイティブは「第三の数字」を使うことが結構あるんです。
ミチヨ:フィンランド語って奥が深いんだと、改めて感じますね。ああ、これですっきりしたわ。ハンナさん、ありがとうございました!
謎は解決!次はどんな依頼が舞い込んでくるかしら?次回もお楽しみに!
*1 トタ(tota):日本語の「えーっと」に当たる語tuota(トゥオタ)のくだけた発音
*2 トラム:ここではフィンランドの首都ヘルシンキを走る路面電車のこと。フィンランド語ではraitiovaunu(ライティオヴァウヌ)またはratikka(ラティッカ)と言う
フィンランド語探偵ハンナ 第13回
Päivää(パイヴァー)!こんにちは!
6月といえば日本は梅雨でうっとうしい季節だけど、フィンランドでは夏のベストシーズン。気温もそんなに高くないし、何よりカラッとした晴天が続いて最高!一大イベントの夏至祭も行われるわ。フィンランド語で6月はkesäkuu(ケサクー)って言うんだけど、直訳すると「夏の月」という意味。ぴったりな名前よね。
さて、今日もフィンランド語の謎を解明しなくちゃ。ハンナならどんな難題も解決できるんだから!
13回目の依頼人は、フィンランド留学を希望するユミコさん。3回目の登場よ。

🔎Case #13:『可能な理由は人それぞれ』
ハンナ:こんにちは、ユミコさん。お久しぶりね!元気だった?
ユミコ:はい、本当にお久しぶりです。それであの、実は秋からフィンランド留学が決まったんです!
ハンナ:まあ、良かったわね!ヘルシンキへ行くの?
ユミコ:ええ、アールト大学*1へ行きます。1年間、北欧デザインを本場で学べるなんて夢のようです。
ハンナ:おめでとう。留学でたくさんのことを学んできてね。それで、今日はどういうご依頼かしら?
ユミコ:フィンランド語を勉強し始めて1年以上経ちましたが、まだわからないことだらけで。この前、自分でリスニング問題を解いていて、Osaan uida.(オサーン ウイダ)という文が出てきました。これって「私は泳げる」という意味ですよね?
ハンナ:そうよ。osaan(オサーン)が「私はできる」という意味の動詞、原形はosata(オサタ)ね。
ユミコ:はい。そこで疑問がわきました。参考書には「できる」という意味の動詞としてvoida(ヴォイダ)も書かれています。osataよりvoidaが先に出てきたので、「できる」という可能の意味を表す動詞はvoidaしかないかと思っていたんですが……。
ハンナ:osataも「できる」という意味だと知って不思議に思ったのね?
ユミコ:そうなんです!Osaan uida.(オサーン ウイダ)も「私は泳げる」、Voin uida.(ヴォイン ウイダ)も「私は泳げる」。2つの動詞、osataとvoidaの違いを調べてみましたが、うまく探せなくて。どうして同じ「できる」なのに2つの動詞があるのか。ハンナさん、この謎が解けますか?
ハンナ:トタ、トタ*2……。わかったわ!
わかったわ!
謎を解くカギは「可能な理由」よ!
ユミコ:理由?どういうことでしょうか?
ハンナ:ユミコさん、確かにosataもvoidaも訳せば「できる」という意味なんだけど、osataは「できる能力がある」、voidaは「できる状況である」という意味が根底にあるの。さっきユミコさんが言ってくれた文とその詳しい訳を書いてみると……。
(1)Osaan uida.(オサーン ウイダ)「私は泳ぐ能力がある」
(2)Voin uida.(ヴォイン ウイダ)「私は(水着を用意しているなど)泳げる状況にある」
ユミコ:そうか、なるほど!「泳げる」と言っても、能力によって可能か、状況によって可能か、理由が違うってことか!
ハンナ:その通り!専門用語でも「能力可能」と「状況可能」って言うのよ。日本語は(1)と(2)みたいにできる理由が違っても「泳げる」って言えてしまうけど、フィンランド語では動詞の使い分けが生じるということ。
ユミコ:へー、答えを知れば納得できるけど……とっさに「可能な理由」で動詞を使い分けるのって難しいですね。
ハンナ:学習者にとってはそうよね。でも、現地で毎日フィンランド語を話したり聞いたりしているうちに、絶対にスラスラ言えるようになるわよ!
ユミコ:そうだといいな。大学の授業は英語が多いですけど、生活の中でフィンランド語の能力を高めていきたいです。
ハンナ:帰ってきたら私がびっくりするぐらい上達しているように、頑張ってきてね!
ユミコ:はい!ハンナさん、ありがとうございました!
謎は解決!次はどんな依頼が舞い込んでくるかしら?
次回もお楽しみに!
*1 アールト大学:ヘルシンキ工科大学、ヘルシンキ経済大学、ヘルシンキ美術大学が合併し、2010年に開学した大学
*2 トタ(tota):日本語の「えーっと」に当たる語tuota(トゥオタ)のくだけた発音