フィンランド語探偵ハンナ 第17回

Päivää(パイヴァー)!こんにちは!

10月のイベントとして日本でもすっかり定着したのがハロウィン。フィンランドでも仮装をしたり、子供たちがお菓子をもらったりしているんだけど、そこまで盛大に祝われるわけではないわね。日本では繁華街に集まってワイワイ騒ぐのが恒例になってるけど、そういうこともしないの。ハロウィンより春のイースターの方が盛り上がるかしら。

さて、今日もフィンランド語の謎を解明しなくちゃ。ハンナならどんな難題も解決できるんだから!

17回目の依頼人は、ミリタリー好きな高校2年生のマサト君よ。

🔎Case #17:『東西南北プラス4

ハンナ:はじめまして、こんにちは。えーと、マサト君ね?

マサト:はい、はじめまして!探偵さんは日本語とフィンランド語のバイリンガルなんですよね?羨ましいです。

ハンナ:ハンナと呼んでいいわよ。マサト君はどうしてフィンランド語を勉強しているの?

マサト:僕、実はミリタリーオタクってやつで、世界の色々な兵器や軍隊のシステムなんかに興味があるんです。最近は特に、フィンランドの軍や戦争の歴史を勉強していて、大学ではその研究をしたいと思っているくらいで。それでフィンランド語も始めました。

ハンナ:へーえ。軍や戦争については、私よりずっと詳しそうね。それで、今日はどんなご依頼かしら?

マサト:今年の夏休みに、ヘルシンキ大学のサマースクール*1に参加できるチャンスがあって、2週間だけフィンランド語を勉強してきました。初日、空港から宿に向かおうとタクシーに乗った時に、不思議なことがあったんです。

僕が向かおうとしていたのは安いユースホステルで、タクシーの運転手さんはその場所をよく知らないようでした。僕は「ここから北東の方角にある」と伝えようとしました。「北」がpohjoinen(ポホヨイネン)、「東」がitä(イタ)だとは知っていたので、それをくっつければいいかなって思って、「北東」という意味でpohjoinen-itä(ポホヨイネン イタ)と言ったんです。そうしたら、運転手さんは混乱した様子で「北?東?どっちなんだ?」と英語で尋ねてきました。地図を見せると場所がわかったようで、無事に目的の宿にはたどり着けたんですけど、pohjoinen-itäでは通じなかったんですよね。英語ではNorth-Eastと言ったら通じるのに。こんな些細なことですが、僕にはどうもわからなくて。ハンナさん、この謎を解いていただけますか?

ハンナ:トタ、トタ*2・・・わかったわ!

謎を解くカギは8方位の言い方」よ!

マサト:8方位?東西南北と、あと4つ?

ハンナ:マサト君、東西南北を表す単語は知ってるのよね?

マサト:はい、「北」がpohjoinen(ポホヨイネン)、「東」がitä(イタ)、「南」がetelä(エテラ)、「西」がlänsi(ランシ)、ですよね?

ハンナ:正解よ。8方位というのは、そこに「北東」、「南東」、「南西」、「北西」を加えたもの。マサト君が言ったように、英語では「北」のNorthと「東」のEastをつなげてNorth-Eastと言えば「北東」を表現できるわ。でもね、フィンランド語は8方位の単語が全て違うの。

マサト:ええ?!「北」や「東」と「北東」は全然違う単語ってことですか?

ハンナ:そうなの。マサト君、このリストを見て。

北=pohjoinen(ポホヨイネン)

北東=koillinen(コイッリネン)

東=itä(イタ)

南東=kaakko(カーッコ)

南=etelä(エテラ)

南西=lounas(ロウナス)

西=länsi(ランシ)

北西=luode(ルオデ)

マサト:ほんとだ!4方位の間にある方位は、全然関係ない単語に見えますね。

ハンナ:こういう言語は世界的にも珍しいと思うんだけど、フィンランド語は8方位全て、それぞれ覚えないといけないのよね。

マサト:日本語と英語を基準に考えていたから、とっても不思議に見えますけど、フィンランド人にとってはこれが常識なんですね。8方位の単語を見るだけで、自分の視野が広がったような気がします。難しいけどフィンランド語の勉強をもっとしていこうと思いました。ハンナさん、ありがとうございました!

謎は解決!次はどんな依頼が舞い込んでくるかしら?次回もお楽しみに!

*1 サマースクール:通常6月~8月に大学で開かれる語学講座。フィンランド語ではkesäyliopisto(ケサユリオピスト)

*2 トタ(tota):日本語の「えーっと」に当たる語tuota(トゥオタ)のくだけた発音

 

フィンランド語探偵ハンナ 第16回

Päivää(パイヴァー)!こんにちは!

9月といえば秋の始まりよね。フィンランド語で9月はsyyskuu(スュースクー)と言って、「秋の月」という意味なの。この時期は一気に気温が下がってくるから、旅行する場合は日本にいる時より1枚多く着る、という感覚を持つといいわ。

さて、今日もフィンランド語の謎を解明しなくちゃ。ハンナならどんな難題も解決できるんだから!

16回目の依頼人は、第11回に登場した、出版社勤めでフィンランド人の友人を持つサヤカさんよ。

🔎Case #16:『バースデーソングの謎』

ハンナ:こんにちは、お久しぶりね。

サヤカ:こんにちは!最近は仕事が忙しいんですけど、やっぱりフィンランドが恋しくて、思い切ってこの前行ってきちゃいました。友人のアンナが誕生日だったので、お祝いもかねて。

ハンナ:そう!アンナさんも喜んだでしょうね。

サヤカ:ええ、普段ビデオチャットをしていますが、実際に会うのは5年ぶりくらいなので、お互いテンション上がっちゃいました。

ハンナ:いい思い出を作れて良かったわね。それで、今日はどんなご依頼かしら?

サヤカ:アンナをお祝いするために、ホームパーティーに参加した時のことです。おなじみのバースデーソング、“Happy Birthday To You”をフィンランド語で歌おうということになりました。私はそれまでフィンランド語バージョンを知らなかったので戸惑っていたら、「簡単な歌詞だから大丈夫よ」とアンナが教えてくれました。確かに1つの文を繰り返すだけで、すぐに覚えられたんですが、その歌詞がとても不可解で・・・。

ハンナ:不可解?“Paljon onnea vaan.”(パルヨン オンネア ヴァーン)のことよね?

サヤカ:そう、それです!Paljon onnea.(パルヨン オンネア)は「おめでとう」という意味だと知っています。私が気になったのは最後のvaan(ヴァーン)です。

文法書には『vaanは「AではなくB」という表現で使われる』と書いてあります。例えばEn ole kiinalainen vaan japanilainen.(エン オレ キーナライネン ヴァーン ヤパニライネン)「私は中国人ではなく日本人です」というように。そうですよね?

ハンナ:ええ、合ってるわ。

サヤカ:だとしたら、Paljon onnea vaan.っておかしくないですか?「おめでとう、ではなく」?「おめでとう、だけれども」??どんな日本語をあてても不可解です。バースデーソングになぜvaanなんて否定的な意味を持つ単語が使われるのか、疑問に思いました。でもアンナはすぐに彼と話を始めちゃったから邪魔するわけにもいかず、私もほどなくして酔いが回り、聞くのを忘れちゃいました。そんなわけでこちらに伺いました。ハンナさん、この謎が解けますか?

ハンナ:トタ、トタ*1・・・わかったわ!

謎を解くカギは「話し言葉のvaanよ!

サヤカ:話し言葉?どういうことでしょうか?

ハンナ:サヤカさんの言う通り、vaanは「~ではなく」の意味で使われることが多いわ。でも、話し言葉、つまり会話の中では別の意味を持つことがあるの。

サヤカ:へえ。話し言葉のvaanはどういう意味なんですか?

ハンナ:簡単に言うと、話し言葉のvaanには何かを命令したり誘ったりする時に微妙なニュアンスを加える働きがあるの。

例えば、友達を家に招いてたくさんの料理を出したとしましょう。好きなだけ食べてほしいわよね。その時、Ota vapaasti.(オタ ヴァパースティ)「自由に取って」と言うのと、Ota vaan vapaasti.(オタ ヴァーン ヴァパースティ)と言うのとはちょっと違うの。vaanなしだと「自由に取って」、vaanをつけると「自由に取って」ぐらいの違いかしら。

サヤカ:なーるほど、話している人の気持ちが乗るってことでしょうか。じゃあ、バースデーソングのPaljon onnea vaan.のvaanも同じ働きがあるんですか?

ハンナ:それもあるけど、バースデーソングは普通の会話とちょっと事情が違うと思うわ。バースデーソングでPaljon onnea vaan.と言っているのは、歌のメロディーに合わせてvaanを付け足したというのが主な理由じゃないかしら。日本語でも「おめでとう」と「おめでとうね」は、ほとんど意味が変わらないでしょう?

サヤカ:そうか!微妙なニュアンスを伝える単語だけど、歌詞をメロディーに合わせるという使い方もあるんですね。俳句で五・七・五にそろえるのと似てるかも。

ハンナ:そうね。vaanは会話の中でけっこう大事な要素なんだけど、ネイティブでもうまく説明できない人が多いわ。

サヤカ:そうなんですね!話し言葉のvaanがネイティブのようにすっと出てきたら進歩したってことになるのかな?また勉強頑張ります。ハンナさん、ありがとうございました!

謎は解決!次はどんな依頼が舞い込んでくるかしら?次回もお楽しみに!

*1 トタ(tota):日本語の「えーっと」に当たる語tuota(トゥオタ)のくだけた発音