フィンランド語探偵ハンナ 第15回

Päivää(パイヴァー)!こんにちは!

日本に住んでいると、時々フィンランドの食べ物が恋しくなるわ。例えばコーヒーのお供、シナモンロール。フィンランド語でシナモンロールはkorvapuusti(コルヴァプースティ)と言って、これは「耳への平手打ち」という意味なの。耳を押しつぶしたような形を例えているんだけど、何だか物騒な名前よね。

さてと、今日もフィンランド語の謎を解明しなくちゃ。ハンナならどんな難題も解決できるんだから!

今回の依頼人は、第9回に登場した大学院生のカナさんよ。

 

🔎Case #15:『でもはでもでも』

ハンナ:こんにちは、元気にしてた?

カナ:はい、お久しぶりですね。今年度は修士論文を提出する年なんです。北欧の幼児教育をテーマにして、大体まとまってはきました。できれば博士課程に進んで研究を続けたいと思っています。

ハンナ:そう、頑張ってね!調査でフィンランドに行くことはあるの?

カナ:はい、実は先週まで、2週間滞在していました。大学の図書館で資料を集めつつ、現地の友人とも会ったりして楽しかったですね。ただ、友人との会話の中でどうも腑に落ちないことがあり、またここに来ました。

ハンナ:なるほど、どんなご依頼かしら?

カナ:ラウラという友人と大学で会って話をしていた時のことです。「これからコーヒーを飲みに行こう」みたいなことを言われたんですけど、その時の言葉が引っかかって。

ラウラはMennäänkö kahville, vaikka Café Esplanadiin?(メンナーンコ カハヴィッレ ヴァイッカ カフェ エスプラナディーン)と言いました。Mennäänkö kahville?(メンナーンコ カハヴィッレ)は「コーヒーを飲みに行かない?」という意味ですよね*1

ハンナ:その通りよ。

カナ:私が気になったのは、その後のvaikka Café Esplanadiin(ヴァイッカ カフェ エスプラナディーン)です。vaikkaって「~だけれども」という意味ですよね?文法書でこんな文を見たことがあります。

Lähdetään, vaikka sataa lunta.

(ラハデターン ヴァイッカ サター ルンタ)

「雪が降っているけれども出かけよう。」

ハンナ:確かにそうね。

カナ:ラウラが言った言葉を訳すと、「コーヒーを飲みに行かない?カフェ・エスプラナード*2だけど。」となります。ご存知のように、カフェ・エスプラナードは超有名店です。それなのに「カフェ・エスプラナードだけど」と、謙遜するようなことを言うから変だなあと思ったんです。細かい質問をするのも何だか悪い気がして、ラウラには言えずじまいでした。まさか、フィンランドにも日本と同じような謙遜の文化があるとか?!ハンナさん、この謎が解けますか?

ハンナ:トタ、トタ*3・・・わかったわ!

謎を解くカギはvaikkaのもう一つの意味」よ!

カナ:もう一つの意味?「~だけれども」とは違う意味があるんですか?

ハンナ:文法書では、vaikkaは「~だけれども」という意味をメインに説明する傾向があるみたいだけど、実はもう一つ、「例えば」という意味があるの。

カナ:えーっ、そうなんですか!ということは・・・

ハンナ:もうわかったわよね?ラウラさんが言ったMennäänkö kahville, vaikka Café Esplanadiin?を直訳すると「コーヒーを飲みに行かない?例えばカフェ・エスプラナードに。」となるわね。

カナ:なーんだ、そうかあ。それにしても、vaikkaは「~だけれども」と「例えば」という全く違った意味を持つ言葉なんですね。ちょっと覚えにくい。

ハンナ:そうでもないわよ。ラウラさんの言葉をもう少し自然な日本語にすると「カフェ・エスプラナードにでもコーヒーを飲みに行かない?」、つまりvaikkaは「でも」という意味。「~だけれども」という言葉も「でも」とほぼ同じ意味でしょ?さっきカナさんが言ってくれた例文の訳「雪が降っているけれども出かけよう。」は「雪が降っている、でも出かけよう。」と言えなくはないから、vaikka=「でも」と覚えるといいわ。

カナ:なるほど!「でも」は「でも」でも違う意味・・・何だか「でも」ばっかり。

ハンナ:ところでカナさん、カフェ・エスプラナードでシナモンロールを食べた?

カナ:はい!とっても美味しかったです。大きいからお腹いっぱいになっちゃいました。

ハンナ:あそこのシナモンロールは私も大好き。ああ、また食べたくなっちゃった。

カナ:私もサルミアッキが恋しいなあ。あ、冗談ですよ、あれだけはちょっと無理です・・・。とにかくハンナさん、ありがとうございました!

謎は解決!次はどんな依頼が舞い込んでくるかしら?次回もお楽しみに!

*1 Mennäänkö kahville?は「お茶しに行かない?」のように、飲み物をコーヒーに限定しない意味としても使われます

*2 カフェ・エスプラナード:ヘルシンキの目抜き通り、エスプラナード通りにあるやや高級なカフェ

*3 トタ(tota):日本語の「えーっと」に当たる語tuota(トゥオタ)のくだけた発音

 

フィンランド語探偵ハンナ 第14回

Päivää(パイヴァー)!こんにちは!

この季節、フィンランド人の大半は夏休みを満喫しているわ。郊外のkesämökki(ケサモッキ)と呼ばれるサマーコテージで、のんびり日光浴をしたり、サウナと湖を往復したり。ただ、自然が豊かなところには蚊がたくさんいるの。日本の蚊より大きいから、刺されると結構痛くて。しかも、日本の虫よけスプレーを使っても全く効果がないの!

さて、今日もフィンランド語の謎を解明しなくちゃ。ハンナならどんな難題も解決できるんだから!

14回目の依頼人は、お隣のフィンランド人女性とすっかり仲良くなった、主婦のミチヨさんよ。

🔎Case #14:『第三の数字』

ハンナ:こんにちは、ミチヨさん。お久しぶりですね。

ミチヨ:ええ、ご無沙汰しています。今もちょっとずつフィンランド語の勉強をしていますよ。お隣のパイヴィさんは漢字の勉強をしていらっしゃるので、私もお手伝いしたり。

ハンナ:お互いに語学を頑張っていらっしゃるんですね。それで、今日はどういうご依頼ですか?

ミチヨ:ええと、パイヴィさんの弟さんで、ヘルシンキ在住のマッティさんが、先日遊びに来たんです。その日は私もお家に招かれていましてね。お料理の準備が一段落したところで、パイヴィさんに電話がかかってきました。

ハンナ:マッティさんからですか?

ミチヨ:はい。「空港から最寄り駅まで来た」という連絡でした。何度か日本に来たことがあるそうで、電車の乗り換えも一人でスムーズにできたようで。

最寄り駅から私たちの住む地区までは、バスで10分ほどの距離です。私たちはバスに乗ってマッティさんを迎えに行く予定でした。でも彼は「バスの番号を教えてくれれば一人で来られる」と言ったようで、パイヴィさんは最寄りのバス停までの行き方を説明し始めたんです。彼女はリビングのソファに座り、携帯電話で話していました。私は、少しでも聞き取れるフィンランド語はないかと、隣で耳を傾けていたんです。そして間もなく、ある謎にぶつかりました。

ハンナ:謎、とは?

ミチヨ:駅から4番のバスに乗れば、自宅前のバス停に着きます。だから、少なくともneljä(ネリヤ)、つまり「4」という数字は出てくるだろうと思って聞いていました。ところが、いつまで経ってもneljäという単語は聞こえてこなかったのです。そのうち電話が終わり、パイヴィさんは日本語で「バスの番号を教えましたから、マッティは来られます」と言ったのです。ということは、数字を伝えたはず。でも彼女は、neljäとは言っていないのです。数字を伝えていないのに相手に伝わるなんてことありませんよね?ハンナさん、この謎が解けますか?

ハンナ:トタ、トタ*1……、わかったわ!

謎を解くカギは「第三の数字」よ!

ミチヨ:第三の数字?あの、バスは4番ですけど?

ハンナ:ミチヨさん、「1、2、3……」と数える時の数字の他に、数の表し方をご存知ですか?

ミチヨ:ええと、はい、「1番目、2番目、3番目……」という数え方、序数と言うんだったかしら?「日付などに使われる」と、参考書に書いてありました。

ハンナ:そう、序数もありますね。

ミチヨ:でも……序数にしても「4番目」はneljäs(ネリヤス)と言うんですよね?普通の数字、neljäと似ているから聞き取れても良さそうなものだけど、それも聞こえませんでしたよ。

ハンナ:実は、フィンランド語には他にも数え方があるんです。バスやトラム*2などの番号を「1番、2番、3番……」と数えるのに使う「第三の数字」です!

ミチヨ:えっ、番号を言うための数字が別にあるんですか?!

ハンナ:その通り。「1、2、3……」と数える時の数字を基数と言いますが、それと「第三の数字」を1から10まで比べてみましょうか。

ミチヨ:基数に似たものもあれば、ずいぶん違っているものもありますね。「4」はneljä(ネリヤ)で「4番」はnelonen(ネロネン)、こうして見れば似ていると思えますけど、知らなければ聞き逃してしまうかも知れないわ。

ハンナ:そう、そこなんです。おそらく、パイヴィさんはnelonenという単語を使ったのでしょう。それも、もし文の中で使ったとしたら、形が変わることがあります。例えば「4番(バス)に乗りなさい」はNouse neloseen.(ノウセ ネロセーン)と言います。nelonen(ネロネン)がneloseen(ネロセーン)に変化してしまい、バスという単語も出てこないので、聞き取りは難しかったと思いますよ。

ミチヨ:なるほど、そうだったのね。基数と序数以外に数字があるなんて思いもしませんでした。

ハンナ:基数を使って番号を言う方法もありますが、ネイティブは「第三の数字」を使うことが結構あるんです。

ミチヨ:フィンランド語って奥が深いんだと、改めて感じますね。ああ、これですっきりしたわ。ハンナさん、ありがとうございました!

 

謎は解決!次はどんな依頼が舞い込んでくるかしら?次回もお楽しみに!

*1 トタ(tota):日本語の「えーっと」に当たる語tuota(トゥオタ)のくだけた発音

*2 トラム:ここではフィンランドの首都ヘルシンキを走る路面電車のこと。フィンランド語ではraitiovaunu(ライティオヴァウヌ)またはratikka(ラティッカ)と言う