フィンランド語探偵ハンナ 第11回

Päivää(パイヴァー)!こんにちは!

フィンランドには、ちょっと変わったイベントがあるの。手ぶらの状態でギターを弾く動きを競う「エア・ギター選手権」に、ヘヴィメタル・ロックを演奏しながら編み物をして、その技術と独創性を競う「ヘヴィメタル編み物選手権」。この2つは世界大会で、日本人が優勝したこともあるから、知っている人も多いんじゃないかしら。

さて、今日もフィンランド語の謎を解明しなくちゃ。ハンナならどんな難題も解決できるんだから!

今回の依頼人は、第7回に登場した出版社勤めのサヤカさん。お友達をたずねてフィンランドへ行ってきたばかりなんですって。

🔎Case #11:『なぜあるのかNA?』

ハンナ:こんにちは、お久しぶりね。

サヤカ:そうですね。実は私、先月友人のアンナをたずねてフィンランド旅行をしたんです。当然日本よりは寒かったですけど、一週間とても楽しく過ごせて、絶対また行きたい!とアツくなりました。

ハンナ:まあ、それは嬉しいわ。フィンランド語学習のモチベーションも上がるわね。それで、旅行中に何か謎が生まれて今日来た、のかしら?

サヤカ:その通りです。ヘルシンキから、高速バスでトゥルク*1まで行った時のことです。トゥルクにはアンナが住んでいるので。

ハンナ:なるほど。それで?

サヤカ:ご存知だと思いますが、ヘルシンキとトゥルクの間にサロという町があります。もうすぐサロに到着する、という時に、運転手さんが“セウラーヴァナ サロ”とアナウンスしたように聞こえました。そこでおやっと思ったんです。

ハンナ:「次はサロです」という意味ね。何がおかしいと思ったの?

サヤカ:私はseuraava(セウラーヴァ)「次の」という単語なら知っています。でも、単に“Seuraava Salo.”(セウラーヴァ サロ)ではなく、“Seuraavana Salo.”(セウラーヴァ サロ)と聞こえたんです。私の聞き間違いなのか、本当にそう言っていたのかわからなくて。アンナにも聞きそびれてしまって、ご相談に来ました。細かいことですが、気になってしまって。ハンナさん、この謎が解けますか?

 

ハンナ:トタ、トタ*2・・・わかったわ!

謎を解くカギは「状態を表すNAよ!

 

サヤカ:あ、じゃあやっぱり「ナ」は聞き間違いじゃなかったんですね?

ハンナ:そう、サヤカさんのリスニング力はなかなかのものよ。フィンランド語には「~として、~の状態で」という意味を表す NAという語尾があるの。“Seuraavana Salo.”を直訳すると「次としてはサロです」みたいになっちゃうんだけど、よくある言い方なのよ。

サヤカ:ふうん。seuraava以外の単語にNAがつくこともあるんですよね?

ハンナ:もちろん。特によく使うのは、曜日や時間帯を表す時ね。例えば、「今日は日曜日だ」は“Tänään on sunnuntai.”(タナーン オン スンヌンタイ)と言うんだけど、「日曜日会いましょう」は“Nähdään sunnuntaina.”(ナハダーン スンヌンタイ)のようにNAがつくのよ。

サヤカ:そうか、うっかりしてるとNAをつけるのを忘れちゃいそう。

ハンナ:tämä talvi(タマ タルヴィ)「今冬」という表現も、“Tä talvena sataa paljon lunta.”(タ タルヴェ サター パルヨン ルンタ)「今冬は雪がたくさん降っている」のように使うわね。

サヤカ:そうなんですか。「タナ タルヴェナ」って、何だか韻を踏んでいるように聞こえますね。フィンランド語はラップが作りやすいかも?

ハンナ:あはは、そうかもね。

サヤカ:これからは、NAをつけて自然に話せるよう頑張ります!ハルナさん、ありがとうございました!

 

謎は解決!次はどんな依頼が舞い込んでくるかしら?次回もお楽しみに!

 

*1 フィンランド南西部にある都市。1819年まではフィンランドの首都だった

*2 トタ(tota):日本語の「えーっと」に当たる語tuota(トゥオタ)のくだけた発音

フィンランド語探偵ハンナ 第10回

Päivää(パイヴァー)!こんにちは!

遅くなったけど、Hyvää uutta vuotta!(ヒュヴァー ウーッタ ヴオッタ)=「新年おめでとう!」2020年も皆さんにたくさんの幸せがありますように。

年が明けても探偵事務所は忙しいわ。今日もフィンランド語の謎を解明しなくちゃ。ハンナならどんな難題も解決できるんだから!・・・あら?新しい依頼人かしら。

🔎Case #10:『バターはデキる―2つの顔を持つことば』

ハンナが事務所のシャッターを開けると年老いた男性が立っていた。

ハンナ:おはようございます。こちらにご用でしょうか?

老人:おお、こちらは探偵事務所ですな。それも、フィンランド語の謎を解明するという。

ハンナ:はい、その通りです。

老人:フィンランド語は世界一難しいと言われているようじゃが、依頼人は毎日大勢いらっしゃるのかな?

ハンナ:ええ、最近は北欧ブームも手伝って、以前よりさらに増えています。ところで、その、あなたもご依頼にいらっしゃったのですか?

老人:ハンナ探偵、あなたはかなり優秀だという噂じゃが、こんなのはどうかな?

 

『キノコでキュウリをこすると痛い。バターはデキる。』

 

これはどういう意味かのう?すぐにわかれば、あなたは名探偵じゃ……。

ハンナ:はい?あれ、おじいさんが消えた!!いったい何?!

老人の声:今から1分以内で謎を解いてみなされ。はっはっはっ……。

ハンナ:うわ、声だけ聞こえる!とりあえず落ち着こう。フィンランド語の謎なのよね。トタ、トタ*1……キノコでキュウリを……バターはデキる……わかったわ!

謎を解くカギは「同音異義語」よ!

老人の声:ほう、詳しく説明してくださるかな?

ハンナ:キノコ、キュウリ、バター。この3つをフィンランド語に訳すと「キノコ」はsieni(シエニ)、「キュウリ」はkurkku(クルック)、「バター」はvoi(ヴォイ)です。しかし、これらは別の顔を持っています。それぞれに、いわゆる「同音異義語」、つまり「同じ発音で異なる意味を持つことば」が存在するんです。

老人の声:ふむ。

ハンナ:sieniは「キノコ」の他に「スポンジ」という意味があり、kurkkuは「キュウリ」の他に「のど」という意味があります。異なる意味のことばをそれぞれさっきの文に当てはめると、『スポンジでのどをこすると痛い』となり、意味が通じる文になります。

最後の『バターはデキる』ですが、voiは「バター」の他に「~できる(可能)」「おやまあ(感嘆詞)」という意味があります。そこで『バターはデキる』をフィンランド語にするとVoi voi.(ヴォイ ヴォイ)。これも「おやまあ」という意味の表現として成り立ちます。

フィンランド語の同音異義語を考えれば、『キノコでキュウリをこすると痛い。バターはデキる。』は『スポンジでのどをこすると痛い。おやまあ。』という文に読み替えることができます。いかがでしょうか?

老人、再び姿を現した。

老人:むむむ、予想外に早く解決されてしまったのう。もう少し難しい謎でも良かったかも知れん。頼もしい探偵になっているようで何よりじゃ。

ハンナ:あれ、さっきといでたちが違うように見えますが……赤い服に赤い帽子……えっ?おじいさん、もしかしてサンタクロース?!

老人:さあ、どうかの。短い時間じゃったが、楽しかったぞ、ハンナ。これからも悩める依頼人をたくさん救っておくれ。またいつか遊びに来ようかのう。ほっほっほっ……。

ハンナ:……う~……はっ?!え?私、寝てたの?おかしいな、さっきまでおじいさんと話してたのに、なんで机に突っ伏して……。

夢……だったの?年が明けたのに、サンタクロースが事務所に来る夢なんて、変なの……あ、そういえばあのおじいさん、小さい頃に亡くなったおじいちゃんに似てたかも……。

謎は……一応解決、かな?亡くなったおじいちゃんが私を心配して来てくれた、な~んてね。さて、休んでいる暇はないわ。次はどんな依頼が舞い込んでくるかしら?次回もお楽しみに!

*1 トタ(tota):日本語の「えーっと」に当たる語tuota(トゥオタ)のくだけた発音