フィンランド語探偵ハンナ 第9回

Päivää(パイヴァー)!こんにちは!

もうすぐクリスマスね。日本ではデパートなどで早々とクリスマスの準備を始めているけど、フィンランドでも11月くらいから、pikkujoulu(ピックヨウル)=「小さなクリスマス」と呼ばれるイベントを友人や同僚と催すの。みんな、色々なところで開かれるpikkujouluに行くわね。日本の忘年会のようなものかしら。

さてと、今日もフィンランド語の謎を解明しなくちゃ。ハンナならどんな難題も解決できるんだから!

さて、今回の依頼人は、第3回に登場した大学院生のカナさんよ。

🔎Case #9:『行くのか、行ってくるのか』

ハンナ:こんにちは、お久しぶりね。

カナ:そうですね。大学院での研究は順調に進んでいます。北欧の教育に関する論文を少しずつ読んで、修士論文の全体像がだんだん見えてきました。

ハンナ:それなら、だいぶフィンランド語も読めるようになったかしら?

カナ:うーん、何せ独学なので、pikku hiljaa(ピック ヒルヤー)=「少しずつ」という感じです。やり始めた頃に比べれば、多少進歩はしたでしょうか。でもまた疑問が出てきたので、ご相談に来たんです。

ハンナ:今日はどんなご依頼?

カナ:ハンナさん、もしお友達と一緒にいたとして、話の途中でその人がトイレに立つというのはおかしいと思いますか?

ハンナ:え?おかしくはないわよ。誰でもそういうことがあるでしょう。

カナ:でも、この前フィンランド人と話す機会があって、途中で私がMenen vessaan.(メネン ヴェッサーン)=「私はトイレへ行きます」と言ったら、その人は一瞬キョトンとしたんです。その後は普通でしたが。

ハンナ:あなたはMenen vessaan.と言ったのね?

カナ:はい。menen(メネン)は「私は行く」という意味、vessaan(ヴェッサーン)はvessa(ヴェッサ)=「トイレ」の「~へ」という形ですよね。文法は合ってるはずなのに、どうしてあんな表情をしたのかな、フィンランドでは途中でトイレに立つのはマナー違反なのかな?と思って・・・ハンナさん、この謎が解けますか?

ハンナ:トタ、トタ*1・・・わかったわ!

謎を解くカギは「『行く』と『行ってくる』の違い」よ!

カナ:え?「行く」のと「行ってくる」のは日本語の違いじゃないですか?

ハンナ:カナさん、menenの原形はmennä(メンナ)=「行く」よね。mennäと似た意味の動詞を知ってる?

カナ:えーと、そういえば見たことがありますね。たしかkäydä(キャユダ)です。でもあまり自分で使ったことはありません。

ハンナ:そこなのよ。mennäは「行く」という動作にだけ注目している時に使うんだけど、käydäは「行ってくる」という意味で、「一時的に立ち寄る」というニュアンスがあるの。

カナ:へ~え。あ!そうか、もしかして・・・。

ハンナ:気づいたみたいね。トイレやサウナへ行ったり、旅行でどこかへ出かけたりといった場合にはkäydäを使うことが多いの。

カナ:なるほど、一時的に立ち寄る場所ですからね。

ハンナ:特に「トイレへ行ってくるね」と言う時はkäydäを使うのが普通ね。この場合はvessaの語尾が違っていて、Käyn vessassa.(キャユン ヴェッサッサ)=「私はトイレへ行ってきます」となるんだけど。

カナ:だから私がMenen vessaan.と言った時、ネイティブはキョトンとしたんですね。

ハンナ:別に間違いではないけど。「トイレへ行く」という動作しか表す必要がない場合には使うわ。極端な例だけど「悲しくて泣きたくなったからトイレへ行く」みたいな状況では、Menen vessaan.と言うかもね。

カナ:すぐに戻るというニュアンスを伝えるにはKäyn vessassa.と言うのかあ。難しいですね。

ハンナ:厳密な使い分けがあるわけでもないから、かえって難しいかも知れないわね。

カナ:メモしておこう。“「トイレへ行ってくる」はKäyn vessassa.”、と!最初は研究手段としてフィンランド語の勉強を始めましたけど、何だかフィンランド語自体が面白くなってきました。ハンナさん、ありがとうございました!

 

謎は解決!次はどんな依頼が舞い込んでくるかしら?次回もお楽しみに!

 

*1 トタ(tota):日本語の「えーっと」に当たる語tuota(トゥオタ)のくだけた発音

 

フィンランド語探偵ハンナ 第8回

Päivää(パイヴァー)!こんにちは!

日本は紅葉の季節ね。フィンランドの紅葉はもう少し早い時期で、10月には雪が降り始める地域もあるわ。

地面がぬかるんで歩きにくいことから、フィンランド語で「10月」はlokakuu(ロカクー)=「泥の月」って言うのよ。
ちょっと切ない語源ね。

さて、今日もフィンランド語の謎を解明しなくちゃ。
ハンナならどんな難題も解決できるんだから!

今日の依頼人は、第4回に登場した主婦のミチヨさんよ。

🔎Case #8:『行く先は最後まで確認すべし』

ハンナ:こんにちは、お久しぶりですね。フィンランド語の勉強はいかがですか?

ミチヨ:こんにちは。お隣のフィンランド人の奥様と、ちょっとだけフィンランド語で話せるようになってきました。
お互いの家を行き来して、私は彼女にシナモンロールの作り方を教わったりしています。

ハンナ:いいお付き合いができているようで何よりですね。
さて、今日はどういったご相談ですか?

ミチヨ:先日ご相談していた場所の表現も少しずつ覚えています。
「明日買い物に行きます」くらいのことは言えるようになりました。
ところが、また場所の表現で不可解なことに気づいたんです。

ハンナ:どういったことでしょうか?

ミチヨ:お隣の奥様がご旅行の計画を話してくださったのですけど、その時の会話を後で思い返したら不思議なんです。
これは、会話を思い出して書き留めたメモです。読んでいただけます?

(ハンナにメモを渡す)

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ハンナ:お隣の奥様はパイヴィさんと言うんですね。

ミチヨ:はい。最初は彼女が海外旅行をするのかと思いました。それで尋ねたら、「東北へ行く」と答えが返ってきて。maa(マー)って「国」という意味ですよね?どうして東北へ行くのに「国」という単語を使ったのか、と後で疑問が残りました。
ハンナさん、この謎が解けますか?

ハンナ:トタ、トタ*1・・・わかったわ!
謎を解くカギは「行き先の最後の形」よ!

ミチヨ:最後の形?どういうことでしょうか?

ハンナ:ミチヨさん、maaという単語は確かに「国」という意味ですが、それだけじゃないんです。
この2つの文を見てください。

 

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(1)Menen maahan.(メネン マーハン)

(2)Menen maalle.(メネン マーッレ)

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ミチヨ:あら、maaについている語尾が違いますね。

ハンナ:そうです。(1)は「私は(その)国へ行く」という意味です。でも、(2)は「私は地方、郊外へ行く」という意味になるんです。maaにつく語尾が変わっているでしょう?それで意味の違いを表すんですよ。

ミチヨ:まあ!そういえば英語のcountryも「国」と「地方、郊外」という意味があるけれど、まさか語尾で意味の違いを表すとは思わなかったわ。

ハンナ:こういった単語はあまり多くはありませんけどね。他には・・・例えば、kahvi(カハヴィ)は「コーヒー」という意味ですが、”Menen kahville.”(メネン カハヴィッレ)と言うと、「私はコーヒーの方へ行く」という意味ではなく「私はお茶をしに行く」という意味になります。

ミチヨ:なるほど、そうだったの。じゃあ、パイヴィさんは「郊外へ行く」と言っていたんですね。

ハンナ:ええ。場所の形は最後まで確認することが大事ですね。これを機会に、決まった言い方として文で覚えてしまうといいですよ!

ミチヨ:そうね。今度地方へ旅行する時に私も使ってみようかしら。また相談に伺いますね。ありがとうございました!

 

謎は解決!次はどんな依頼が舞い込んでくるかしら?次回もお楽しみに!

 

*1 トタ(tota):日本語の「えーっと」に当たる語tuota(トゥオタ)のくだけた発音。